シャープは「メビウス」ブランドで手がけていたパソコン事業から2010年に撤退。東芝の事業買収で8年ぶりに再参入する。中国勢らとの価格競争が激しく日本勢はパソコン分野から相次ぎ撤退を迫られた。シャープは親会社である台湾の鴻海精密工業の調達力も活用し、逆張りの買収を成功させる狙いだ。
シャープは「ダイナブック」などのブランドでパソコン事業を展開する東芝子会社を買収した
シャープは約40億円を投じて「ダイナブック」などのブランドでパソコン事業を展開する東芝クライアントソリューション(TCS、東京・江東)の株式の80.1%を取得した。TCSの覚道清文社長は留任し、最高経営責任者(CEO)として引き続き事業運営にあたるが、会長には新たにシャープの石田佳久副社長が就任した。
シャープの戴正呉会長兼社長は6月の買収表明後、「1~2年内に黒字化して投資金額を回収できる」との自信を語った。また将来的には新規株式公開(IPO)も検討すると明らかにした。18年3月期に83億円の営業赤字だったTCSの業績をどう改善するのか。柱となるのが世界最大の電子機器の受託製造サービス(EMS)である鴻海の調達網の活用と、グローバル市場の開拓だ。
シャープは中国に多くの生産拠点を構え、米IT(情報技術)大手からサーバーなどIT機器の生産を大量に受託する鴻海の購買力を生かし、まず原価を低減することで収支を改善する。東芝は中国・杭州市にある工場でパソコンを生産してきたが、この拠点もシャープが取得する。
またシャープは世界規模での販売網の再構築にも取り組む。TCSは構造改革の一環として不採算だった海外事業を縮小しており、現状では国内市場が主体だ。戴氏も買収後の戦略について6月の買収表明当初は「最初の1~2年は『ダイナブック』のブランドが強い国内を固めたい。中国や米国など海外は次のステップだ」と語っていた。
だが9月下旬に戴氏は中国・広東省で現地ディーラー向けに開いた戦略説明会でノートパソコンを含めて現地展開する商品群を一気に拡大させると表明。また8月末から開かれた欧州最大の家電見本市「IFA」でも戦略商品である8Kテレビなどと共に、ノートパソコンも出展するなど、すでに海外を積極開拓していく意欲を見せ始めている。
シャープのパソコン事業を取り巻く環境は必ずしも順風ではない。米調査会社のIDCによると17年の世界のパソコン出荷台数は、米ヒューレット・パッカード(HP)と中国のレノボ・グループ、米デルの上位3社で市場全体の6割を占めた。NECや富士通の事業を傘下に収めたレノボを始め、市場の寡占化が進んでいる。シャープが買収した東芝のシェアは国内では1割程度あるが、世界で見れば1%にも満たない。
パソコンの世界出荷も20年に17年比3%減の2億5200万台まで減る見通しだ。各社とも需要が底堅い法人向けを中心にセキュリティ対策などサービス面を強化することで機器だけに頼らない収益源を創出しようと競う。世界の巨人たちさえも生き残り策を必死に模索する厳しい市場でシャープがどんな差異化戦略を展開できるかが今後の焦点となる。
今回の買収を主導したシャープの石田副社長は「シャープが持つセンサーやカメラ部品を使えばユニークな商品展開もできる」と販売反転に期待を込める。また「(TCSに)400人いる技術者を活用し、(あらゆるモノがネットにつながる)IoT関連の事業でもシナジーを出す」とし、人工知能(AI)やIoT関連のサービス事業への貢献も期待する。
現状では年1500億円規模の売り上げのTCSの経営資源を有効活用し、いかに事業の規模や領域の拡大につなげられるかが、シャープの成長戦略の行方も左右する。
(シャープ、東芝パソコン事業の買収完了 鴻海の調達力活用
エレクトロニクス 関西
2018/10/1 16:09 日本経済新聞 電子版からの抜粋です。)