2020/8/6付 日経電子版より抜粋
シャープの業績に回復の兆しが見えつつある。
5日発表した2020年4~6月期の連結決算は、最終損益が前年同期比37%減の79億円となり、赤字だった1~3月期から持ち直した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた巣ごもり需要を追い風に、ユニークな家電群が収益を下支えした。その姿は戴正呉会長が描くシャープの未来像に重なるかもしれない。
「カレーがおすすめだぜ」。
シャープは自動調理鍋「ヘルシオホットクック」でカプコンの人気ゲーム「戦国BASARA(バサラ)」とコラボしたモデルを7日に投入する。ゲームの人気キャラ、伊達政宗を演じた声優の声で呼びかける。
ホットクックはインターネットと接続してアプリを使えば、具材を入れるだけで加熱具合や混ぜ方を自動で調整する。一番小さいサイズでも3万円を超えるが、コロナ下で家電量販店では品薄の状態が続いた。
シャープのユニークな家電のヒットが相次いでいる。
過熱水蒸気を使うトースター「ヘルシオグリエ」、ルームエアコンと空気清浄機を一体化した「エアレスト」、独自技術の「プラズマクラスター」を搭載した扇風機――。
「巣ごもりの影響で空気清浄機やエアコン、調理家電、健康関連が伸びている」。野村勝明社長は5日の決算記者会見で自信を示した。20年4~6月期は家電製品を含むスマートライフ事業の営業利益は134億円と2.1倍に膨らんだ。「海外でも新型コロナの影響が緩和しており、ローカルに合わせた家電を強化する」。21年3月期には純利益で2.4倍の500億円を見込む。
半面、主力の液晶パネル関連事業は振るわず、20年4~6月期に49億円の営業赤字に陥った。
16年に鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下入り後の同事業の営業利益のピークは18年3月期の約590億円(当時の複合機事業を含む)。全体の5割強を占めたが、20年3月期は2割に下がった。
液晶関連事業は大口顧客である米アップル「iPhone」の販売動向などに左右されやすい。さらに今後はスマートフォンのディスプレーが高精細な有機ELに置き換わるため、市場縮小という試練が待ち受ける。
そこでシャープは液晶パネルとカメラモジュールを分社する方針を打ち出した。5日には事業承継の日付を10月1日にすると発表。設備投資や研究開発にお金がかかる事業を切り出し、外部からの出資を視野に入れる。
液晶関連の設備投資や研究開発費は重荷になっている。20年3月期まで3期連続で、営業キャッシュフローの流入額を投資キャッシュフローの支出額が上回った。
仮に液晶関連事業がなければシャープの収益力はどう変わるのか。20年3月期の売上高営業利益率は2.3%だったが、液晶関連を除けば4.9%となる。中国家電大手の海爾電器集団(ハイアール・エレクトロニクス)の6.7%には劣るものの、スウェーデンのエレクトロラックスの2.7%は上回る。
「もう液晶の会社ではない。ブランドの会社になる」。18年の株主総会で戴会長は株主らを驚かせた。目指すのは家電など自社ブランドを冠する事業の育成だ。
かつてシャープは電子手帳「ザウルス」や液晶ビデオ「ビューカム」など技術力を生かして需要を創造するヒット商品を生み出した。大胆な変革とアイデアや技術力。シャープの本格的な復活にはすべてが欠かせない。