シャープ「稼げるマスク」へ生産改革

画像検査や自動包装、人員4割減
2021年1月20日

シャープが新型コロナウイルスの感染拡大で不足したマスクの生産を始めて9カ月。設備拡張が進み2020年11月には1億枚の出荷を達成した。足元では省人化に向けた取り組みを進め、1月中にもピーク時より4割少ない人員で生産する体制を整える。効率化を進め、収益をあげる継続事業に変化しようとする生産現場を追う。

松阪牛の産地としても知られる、三重県多気町。車載やウエアラブル端末向けなどの液晶パネルを一貫して手がけてきた三重工場の一部は今、マスクの生産拠点として生まれ変わった。
正門から最も離れた場所にある建屋を訪れると、びっしり並んだ設備が目に留まった。9つの生産ラインが24時間ひっきりなしに動き、毎日70万枚を生み出す。1ラインから1秒おきにマスクが生み出される、眠らない工場だ。 液晶パネルと同じクリーン度のクリーンルームでマスクを生産している。3枚の布と鼻部分のワイヤが装置に供給されるとあっという間に接着し、折り畳まれてひだを形成。別の装置で耳ひもをくっつけると、完成だ。20年3月時点では考えられなかった光景だ。

シャープマスク普通サイズ50枚入り

鴻海の協力得て

「まさか自分がやるとは思っていなかった」。生産を担当したシャープディスプレイテクノロジーの西村英一郎・パネル生産統轄部副統轄部長は率直に話す。一からにもかかわらず、生産立ち上げに与えられた時間は1カ月。当時は装置の確保もままならない。日本企業をあたると「納期は1年」と突き放された。親会社の鴻海(ホンハイ)精密工業の協力などを得て、3月24日の生産開始までにやっとの思いで2台を確保した。

立ち上げたラインはあくまで緊急生産への対応。責任者である西村氏まで生産ラインに入って箱詰め作業をするほどの人海戦術で、効率化は二の次だった。「マスク需要が落ち着いた後も戦える体制をつくる」(西村氏)として、生産改革へとフェーズが移った。

まず画像検査装置を導入し、1台あたり3~4人程度必要だった検査用の人員を省人化。さらにこのほど紙のトレイに乗せ、袋詰めする工程も自動化した。箱詰めなども機械化する方向で、人員をピーク時の6割で生産する体制を今年1月中をメドに構築する考えだ。
20年12月にはマスクを定期的に家に届ける新サービスを始め、通常商品も事実上値下げした。春先のマスク不足の頃とは打って変わり、市場では1枚あたり10円を割る価格で売られる。1枚55円程度のシャープのマスクは高価格帯だ。品質はもちろんコストも含めた競争力全般を高める取り組みが欠かせない。

社会貢献の先へ

8日から東京、神奈川などで2度目の緊急事態措置が実施され、14日からは大阪、京都、愛知などにも措置の対象が広がった。コロナの感染が広がる中、改めてマスクへの注目度は高まる。足元では定期的にマスクを届けるサービス向けの出荷も始まった。西村氏は「シャープのマスクが欲しい、と選ばれる商品にしたい」と強調する。 戴正呉会長兼最高経営責任者(CEO)が「社会貢献」として始めたマスク生産は、シャープのブランドイメージ向上に大きく貢献した。今後は事業としての存在感をどう示していくかが問われる。

(日経電子版 1/20より一部抜粋)

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