|
|
春日村行 木村岳風
郊外杖を牽けば 一路通ず
人家の春色 翠煙の中
黄鶯啼く処 首を回らせば
一点の梅花 水に映じて紅なり
|
【詩形】七言絶句
【韻字】通・中・紅
【語 釈】
筇 :つえ。竹でつくられたつえ。
もとは四川省に産する扶老竹とも呼ばれる竹の種類。つえに適している。
人 家:家々。ここでは村里。
翠 煙:緑のもや。遠くの森などにかかるもや。
黄 鶯:ウグイス。コウライウグイス。
|
【木村 岳風】
明治32年(1899)~昭和27年(1952)
長野県諏訪の人。日本詩吟学院創立者。本名:松木利次。
県立諏訪中学に学ぶ。
大正10年以降朗吟を研究、昭和2年国学振興会設立
さらに研究を続けつつ詩吟奨励行脚の為に国内はもとより朝鮮半島、中国大陸に渡る。
著名の士多数の後援を得、十一年「日本詩吟学院」を設立した。
|
|
|
【通 釈】
春の日。杖をつきながら郊外に足を運べば、一筋の道が続いている。
村里の春は緑の靄に包まれている。
ウグイスの声にふと振り返ると、小川には紅梅の花が美しく映っている。
【参 考】
題意通りののどかな郊外の春景色を歌った詩である。
第二句で翠(みどり)第三句で黄、第四句で紅梅を使い、色彩的にも鮮やかな春景を演出している。
構成を見ると前半は春霞に包まれた郊外の景色を大きくとらえ、
第三句でウグイスの鳴き声を出して聴覚に訴え、
第四句では梅を出して視覚に訴えるという構成をとっている。
その上、この梅が直接目に入るのではなく、水に映じた梅であるという間接的にこの梅をとらえようとするところにこの詩の表現の妙がある。
◆ 同じ題で作られた次の詩を紹介する。
日暖吟行近午天 日暖かに 吟行午天に近し
雨余山色淡如煙 雨余の山色 淡きこと煙の如し
村々梅杏家々柳 村々の梅杏 家々の柳
何処春光不可憐 何れの処か 春光可憐ならざる |
信濃の抒情豊かなこの詩を
気持ちをこめて吟じてみたい |
|