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潮 頭 徳富蘇峰
太平洋外水滔滔
巨浪巌を噛んで怒号を縱にす
一段の青愁 人の識る莫し
芙蓉峰上 月輪高し
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【詩形】7言絶句
【押韻】滔・号・高
【語 釈】
滔 滔:広大なようす。水が盛んに流れるようす
巨 浪:大波。
噛 巌:波が岩に打ち付けて砕ける様子。
怒 号:怒って怒鳴る声。
青 愁:きよらかなうれい。
芙蓉峰:富士山の雅称。
月 輪:満月。月。形が輪のように見えることからいう。
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【徳富蘇峰】
文久3年(1863)~昭和32年(1957)
肥後(熊本県)の人。本名は猪一郎。蘇峰は号である。
又、蘇峰学人とも称した。若いころ、元田永孚塾、竹崎茶堂塾で漢学を学び、のちに熊本洋学校そして同志社に学ぶ。
明治20年(1887)民友社を設立して「国民之友」を発行し、その後「国民新聞」をつくった、日本のジャーナリスト。
初めは自由主義的政論を発表していたが、日清戦争以後は国家主義的な論調に変わった。
徳富蘆花は弟である。
著に『近世日本国民史』等がある。 |
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【通 釈】
太平洋は果てしなく広がり、岩に砕ける大波は怒り叫ぶような声を上げている。
さて、わが心の清らかな憂いを人は知らないが、
富士山の上には満月が高く清らかに輝き《我が心までも》照らしている。
【通 釈】
海の広がりと、岩に砕ける波、富士山の上に輝く月、まるで南画を見ているような世界である。
作者の愁いも眼前の景色の如く清らかそのものである。
あくまでも俗を離れた世界を歌う。
蘇峰は唐の詩人杜甫とイギリスの詩人ミルトンとを比較対照した著『杜甫と弥耳敦』を著すなど漢詩にも造詣が深かった。 |
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