九月十日 菅原道真 去年の今夜 清涼に 待す 秋思の詩篇 獨り 斷腸 恩賜の御衣 今 此こに在り 捧持して 毎日 餘香を拝す |
【詩形】 七言絶句 【脚韻】 涼・腸・香 平水韻(下平七陽) 【語 釈】> 九月十日 9月9日の重陽の節句の翌日、当時宮中では重陽後朝の宴が催された。 清 涼 清涼殿、天使のいつも居られる宮殿 秋思詩篇 「秋思」という勅題で作った詩、この作品は、去年の九月十日と 今日の九月十日とを比べ、その違いの大きさを詠っている 独 作者(菅原道眞を指す)ここでは自分ひとりで昨年に比べて非常に 寂しい気持ちを表している 断 腸 非常に悲しい、はらわたがちぎれるほどに切なく悲しい 恩 賜 帝から頂いたもの 捧 持 捧げ持つ 余 香 残っている香り |
【作 者】菅原 道真(すがわら みちざね) 平安初期の公卿。学者。承和12年(845年)~ 延喜3年(903年)。 本名は三。幼名阿呼。菅公と称された。若年で詩歌を作り始め、神童の誉れ高く、 やがて文章博士にまでなる。 宇田・醍醐の両朝に仕え昌泰2年に右大臣になったが、延喜元年(901年)、藤原時平 の中傷により大宰権帥に左遷され、その地で亡くなる。 後に、学問の神「天満天神」として崇められる。遣唐使の廃止や、国風文化の振興に 努める。 この詩作の後、二年後に世を去る。 |
【詩の心】 去年の今夜、去年の九月十日の重陽後朝の宴では、清涼殿で帝のお側近くにはべっていた。 その宮中の宴では、「秋思」という詩題で、歌を詠み帝に褒められ、その上褒美として 「恩賜の御衣」を賜ったが、それから一年経った後の、今日9月10日は遠く九州の大宰府に 流布され、腸がちぎれるほどの非常な悲しみになって、去年の都での宴を思い起こしている。 起句では、昨年の京都の部分の描写であり、転句の3句目からは、一年後の太宰府での情景 となり、気持ちが切り替わっている。 「秋思詩篇」は、京都時代のことであるが、太宰府で回想しているわけである。 「獨斷腸」は、間違いなく現在の感情であり、 「恩賜御衣今在此 捧持毎日拜餘香」は、今年の9月10日、太宰府での遥かに京都を偲んだ 気持ちである。 詩作の褒美として帝から賜ったお召し物は、今もここにあって、京都から遠い大宰府に流布 されている情況にあっても旧恩を忘れていないということ。 そして、毎日、残り香をかぎながら、帝の恩恵を思い起こしている。 「餘香」は、後に残った香。うつり香。残り香。具体的には衣類に香を焚きしめた残り香を 指す、それと併せて、恵みの名残の意で、余芳、余薫、余馨の意がある。 ここでは、双方の意がある。 結句に現れている、道眞の忠誠心を心から吟じてみたい ********************** ◎ 構成について 韻式は「AAA」。韻脚は「涼腸香」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。「秋思」の「思」の部分は●になるべきところだが、「秋思」は勅題のため、変更できない故。 ●○○●●○○,(韻) ○○○○●●○。(韻) ○●●○○●●, ●○●●●○○。(韻) |
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