遊岳の詩吟うん蓄

 

7言絶句  「客 中」 と 一休 宗純


   客 中    一休宗純
 
   吟髪霜白 衰容を奈んせん
     風は過ぐるも 浮雲一片の跡あり
    識らず今宵 何れの処にか宿せん
     一声あり  古寺 暮楼の鐘


   【詩形】 七言絶句
   【脚韻】 容・縦・鐘   〔押韻〕 上平声冬韻〕

 【語 釈】
   客  中  旅中にて。
   吟  髪  「吟」はこの詩を詠んでいる詩人の意。
   縦     あしあと。
   不  識  疑問の意味を強める語。
   


【作 者】一休 宗純(いっきゅう そうじゅん)

   京都の人、禅僧、詩人。室町時代
        応永元年(1394年)~ 文明13年(1481年)。
   法諱は宗純。法号は一休。別に狂雲子の号がある。
   江州禅興庵の華叟に師事し、臨済宗大徳寺四十八世となった。
   詩書また画も巧みで、詩集に「狂雲集」・「続狂雲集」がある。
   


【通 釈】

  旅にあって,自分の姿につくづくと老いを感ずる。
 わが髪の毛は霜のように白く、身は衰えてどうしようもない。
 空を吹く風すらも、吹いたあとには一ひらの浮き雲を残してその足跡とする。
 しかし、一所不住をこととして定所のない私には、足跡さえ残らない。
  今夜は、いったいどこに泊まることになるのであろうか。
 ちょうどその時、古びた寺の鐘楼から夕暮れを告げる鐘の音が聞こえてきた。
 今日もまた、このまま暮れてゆくのであろうか・・・

【詩の心】
 
  宗教家たる本来の使命もわきまえず、いたずらに出世昇進を望む当時の宗教界に憤りの念を
 禁じえなかった一休禅師は、自らあらゆる執着をすてて諸国に行脚したが、これはその旅の
 途中での作である。
  詩中枯淡味に溢れ、まさに悟りの境地である。一休禅師ならではの作品である。
 
   結句に現れている、「識らず今宵何れの処にか宿せん」に
   一休禅師の想いを乗せて吟じたい


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