遊岳の詩吟うん蓄


7言絶句  「山中にて幽人と対酌す」 と 李白


  山中にて幽人と対酌す  李 白

 両人対酌して山花開く
  一杯 一杯 復た 一杯
 我酔うて眠らんと欲す 卿且く去れ
  明朝 意有らば 琴を抱いて来たれ
         
 
〔詩形〕 七言絶句
〔脚韻〕 開・杯・來
   
【語 釈】
     与    ~といっしょにの意を表す
     幽 人  世俗を避けて隠棲する人。
          山水の美を共に賞めることのできる人をいうのであろう。
    対 酌  向かい合って酒を酌み交わす。題を「山中對酌」とする本もある。
    兩 人  作者李白と幽人をさす。
    一 杯  「一盃」とする本もあるが意味は同じ。
    卿    自分と同等以下の者に用いる二人称。「君」とする本もある。
    且    「シバラク」と読むときは〝まあちょっと” の意。
         しばらくの間というよりも、ひとまずの語気。
    去    その場を離れてどこか別のところへ行くこと。
         『宋書』「陶淵明伝」に「潜若先酔、便語客、我酔欲眠、卿可去(潜若し先に酔わば便(すなわ)ち客に語(つ)ぐ 我酔うて眠らんとす 卿去るべしと)』とある。第三句はこれにもとづく。
    有 意  その気があればの意。

【李 白】

 李白(りはく、701年(長安元年) - 762年10月22日(宝応元年9月30日)、
 中国盛唐の詩人。 字は太白(たいはく)。

 飄々とした詩風から「詩仙」と後世の人は呼んでおり、杜甫と並び称される。
 絶句の表現を大成させた人物でもある。


【通 釈】

  二人で向かい合って 酒をくみかわすこの山中には、花も卿をそえるかの如くに咲いている。
 一杯、一杯、また一杯、杯を重ねるうちに、おれは酔って眠くなってきた。君、ここのところは、 ひとまず帰ってはくれまいか。明朝、気がむいたらまた琴を持ってやって来たまえ。

【詩の心】

  李白には飲酒の詩が多いが、「月下独酌」に「独酌無相親(独り酌んで 相親しむ無し)とある のに対し、この詩では「両人対酌」として、気の置けない「幽人」と共に痛飲し、酩酊する情景が 描かれている。有名な「一杯一杯復一杯」の句は、型破りの表現であるが、俗世間から離れ、山中 にあってのんびりと酒を飲んでいる境地が、「一杯」の繰り返しのリズムにのって心地よく描き出 されている。ほかにも「将進酒」などがよく知られている。
  なお、平仄の許容によって、絶句に属するか、古詩に属するか節の分かれるところである。
  

   「一杯 一杯 復一杯」に気持ちを込めて、詠じてみたい。 

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