遊岳の詩吟うん蓄


5言絶句  「秋浦の歌」 と 李白


  秋浦の歌    李 白

 白髪 三千丈
  愁いに縁って 箇の似く長し
 知らず 明鏡の裏
  何れの処にか 秋霜を得たる

〔詩形〕 五言絶句
〔脚韻〕 長・霜
【語 釈】
   秋浦=安徽省貴池県(あんきしょうきちけん)の西南(長江下流)にあた       る地名。この地を流れる秋浦河、清渓河の水は清らかであったとい       う。李白は50代半ばに、この地に遊び、「秋浦歌」17首を作った       とされている。 この詩はその第15首目のもの。
  三千丈=「丈」を「尺」とする本もあるが、いずれにしても誇張した表現
  縁 =「因」と同様に原因、理由を表す。 ~のために。
  似箇=「如比」の口語的表現。 このようにの意。
     「箇」は今とする本もあるが、意味は同じ。
  不知=ここでは次の疑問詞「何処」と呼応し、
     自らに対して問いただす気分を表わし、それにしてもいったいの意
  明鏡=よくうつる鏡、澄んだ鏡。
     ここでは 秋浦の水面が澄みきって水鏡となっていること。
     別に手鏡とする解もある。
  秋霜=白い秋の霜を白髪にたとえる。
     別に秋霜は万物を凋落させるものとして、「得秋霜」は秋の霜が髪を痛めつけ     たので白髪になった事を表現しているとの解もある。
  

【李 白】

 李白(りはく、701年(長安元年) - 762年10月22日(宝応元年9月30日)、
 中国盛唐の詩人。 字は太白(たいはく)。

 飄々とした詩風から「詩仙」と後世の人は呼んでおり、
杜甫と並び称される。
 絶句の表現を大成させた人物でもある。

【詩の心】

  起句「白髪三千丈」で有名な詩である
 また、誇張の例えとしてよく引用される。
 李白は44歳、天保三年(744年)に輪林学士の職を免じられ、長安を離れて途中杜甫と山東に遊ぶなどして南下し、江南の地を放浪する。
 50歳代半ばには秋浦にやってきていた。「似箇」と口語的な表現を用いたのは、「三千丈」の表現と共に、気持ちを率直に迸らせたものとして解すべきであろうか。
 自分の姿をまのあたりにしたときの驚きが「不知」から伝わってくるように感じられる。

   静かに、しみじみと詠じてみたい。

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