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竹里館 王 維
独り座す 幽篁の裏
琴を弾じて 復た長嘯す
深林 人知らず
明月来たって 相照らす
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【詩形】五言絶句
【押韻】去声嘯韻(嘯・照)
【語 釈】
『全唐詩』巻128所収。
竹里館 : 竹林の中に建物の名。「輞川もうせん二十景」のうちの一つ。
「輞川もうせん」は長安の南郊輞川もうせんにあった王維の別荘。
親友の裴迪(はいてき)と唱和した作品を収めた『輞川もうせん集』に
収められている。
独(ひとり)坐す 幽篁(ゆうこう)の裏(うち)
独 : ただひとり。作者を指す。
坐 : 座る。
幽 篁 : 奥深く茂った竹やぶ。「幽」は奥深い。「篁」は竹やぶのこと。
裏 : 「うち」と読み、「なか」「そのなか」と訳す。「裡り」と同じ。
実際、作者は、竹やぶの中に建っている建物の座敷に座っていた。
琴を弾(だん)じて 復(また)長嘯(ちょうしょう)す
琴 : 七弦の琴。日本の琴と違い、小さい。
弾 : 琴をひくこと。弦をはじいて音を出す。
復 : 「また」と読み、ここでは単に「そして」と訳す。
長 嘯 : 口をすぼめて、息を長くのばして歌うこと。
深林 人知しらず
深 林 : この奥深い竹林(での楽しみ)。
人 : 世間の人。
不 知 : わからない。理解できない。単に「知らない」という意味ではない。
明月 来たって相(あい)照らす
相 照 : 私を照らしてくれる。ここでの「相」は「たがいに」の意味ではなく、
動作が一方から他方へと及ぶことをいう。
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【王 維】
盛唐 (701~761年)
太原(山西省)の官僚・詩人・画家。字は摩詰。
開元中進士の第一に挙げられた。
絵事中のとき、安禄山の乱が起こり、捕らえられ禄山に仕えた。
画にも勝れ南宋画の祖となった。
李白・杜甫につぐ大詩人で、李白の「詩仙」杜甫の「詩聖」に対
し、熱心な仏教徒であったことから「詩仏」と称されます。
自然派詩人で、晩年は仏教に傾倒した。
韋応物、孟浩然、柳宗元と並び、唐の時代を象徴する自然詩人。
また送別歌・宮廷歌にも優れたものが多い。
(右のカットは、王維・『晩笑堂竹荘畫傳』より)
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【詩の解釈】
◆奥深い竹やぶの中で、ひとり坐って、琴を弾いたり、歌を一節吟じてみたりする。
この深い森の中で、私が誰でだと気付こう。明月だけが私を照らしてくれる。
◆ 王維という人は、李白、杜甫と並んで称せられる、唐時代の大詩人です。
また詩人としてだけでなく、画家、書家、琴の名人としても有名であり、
生きていた当時からもてはやされていた人です。
「詩中に画あり、画中に詩あり」などと、後世評価されていますが、この詩の中にも、
その奏でる楽曲の中にも「詩」や「画」が観えるようです。
王維と言えば自然を詠んだ詩にその特徴があり、自然との一体感を切り離さしては
生きていけないのかも知れません。王維の詩には、そんな効果があると思います。
【この詩には、佐藤春夫の訳詩がある】
竹むらにひとりうずもれ
琴把とりてうそぶき居おれば
やぶ深み人こそ知らね
月かげぞおとなひにける
(佐藤春夫『玉笛譜』) |
私たちは、忙しい日々に追われて疲れ果てた時、
自然に触れることでその疲れが大いに癒されます。
しかしながら、なかなかそのような時間も取れないでしょう。
そんな時に、王維の詩を読み、自然との一体感を味わって見たいと思う。
気持ちをこめて吟じてみたい |
譜 面
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